彼女が勉強する理由

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 「悔しい」
 予備校の自習室。同じ文系クラスの女の子に睨まれた。リップも塗らず、眼鏡姿。あまり気づかれていないけれど、抜けるような白い肌に大きな瞳を備えた彼女は、実は相当の美少女だ。とはいえ、高校も同じなのに、学校でも予備校でもほとんど口をきいたことがない。
 僕の取り柄は勉強だ。さっき返された模試結果でも予備校トップ。二位は、入校から半年でめきめき実力をつけた彼女だった。前回、初めて彼女に追い抜かれた。今回は僕の首位奪還だ。
 でも、それだけのことだった。ただ偏差値が高いだけ。僕の中身は空っぽだ。大学でやりたいことさえ見つからない。これまでと同じ、偏差値にあわせた学校に漫然と進むだけだ。
 猛勉強し、僅差に唇を噛むほど悔しがる彼女が羨ましい。どうしても合格したい大学や、行きたい理由があるんだね。
 自嘲気味に僕が言うと、彼女は視線をそらし、つぶやいた。
 「君の志望校に、入りたいんだ」
青春
公開:20/12/18 19:07
更新:20/12/18 19:24

掌編小説( 首都圏 )

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