広く、浅い

尊敬できない親だった。
離婚して片親で、たった一人の親だったが、母の軽薄さが嫌だった。
無駄に顔が広く、知り合った人誰とでも話す。中身は低俗な世間話、自慢話、誰かの悪口。
勤め先のスーパーで、仕事もせずに客と話してばかりいる。休日に出かければ立ち話の連続でいつまでも帰ってこない。道端で見かけるたびに辟易する。
四六時中、芸能ゴシップ、愚痴、いない人の噂話。
あんたの人生それでいいのかと思っていたら、病気でぽっくり逝ってしまった。
葬儀は手間だったが、就職は決まっていたので先のことには困らない。子として一応の感謝。ありがたく一人で生きていく。でもあんたの真似はしない。

「え」
内定取り消しの電話だった。
真っ暗になった世界で、続けざまもう一本の電話をとった。
『あの人の息子さんだよね？　〇〇商事内定取り消しのニュースを見て……』
仕事を紹介された。
同じような電話が、あと三本かかってきた。