コロイダル溶液瓶

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霞ヶ関某省のビルの一角の窓辺にはガラス瓶が二十個ほど並んでいる。七分目ほど液体が入って日射しに液面がゆらゆらと反射する。
数週間前、某化学メーカーの研究員が新しい発明を見て欲しいとやってきた。研究員はガラス瓶を取り出して生理反応溶液だと説明した。白濁した液。彼は若い職員に「頬の内側の粘膜を少し下さい」と綿棒を渡して、粘膜を取った綿棒を溶液に浸した。「コロイダル溶液は無数の生理的粒子です。ご職員様の細胞を入れたのでその生体つまりご職員の体調に合わせて粒子が群れて動き、液面が揺れます」
研究員が帰ると職員は瓶を机上に置いた。液は静かだ。
夕刻に上司に褒められて席に戻ると液面が揺れている。研究員の言うことを少し信じた。
数日後、研究員がやってきた。「光エネルギーが必要なので瓶を日に当てて下さい」
瓶は窓辺に置かれた。話は広がり他の職員も溶液をもらった。こうして課の窓辺には課員の数だけ瓶が並んだ。
その他
公開:20/12/18 10:23

たちばな( 東京 )

2020年2月24日から参加しています。
タイトル画像では自作のペインティング、ドローイング、コラージュなどをみていただいています。
よろしくお願いします。

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