いびつな石細工

2
4

今からずっと昔の、叶わなかった恋の話。
太助は、ある地主の娘に惚れ込んだ。
裕福でなく、学も芸もない太助は、河原の小石に目をつけた。
決して器用でもなかったが、石同士をぶつけて、削って、辛うじて何かの動物とわかる小物を造ると娘に贈った。
周りからは笑われたが太助は気にもせずに続けた。贈った石細工は百を超えた。贈るに至らなかった、もっと不出来な石細工も百を超えた。
娘は全く靡くことなく、他の男と一緒になった。
太助の石細工造りもそこで終わったが、後に、娘には許嫁がいたのだと知り、自分も身分相応の結婚をした。

それからずっと後。
ある青年が質屋に歪な石細工を売ろうとしたが、あっさり断られた。
横のカウンターで、
「まだ家に百個ぐらいあるんですよ」
若い女が言った。
互いに気づいて見比べると、二人の石細工はよく似ていた。
「街の骨董屋なら売れるかも」
「いきましょう」
二人は並んで店から出た。
その他
公開:20/12/17 10:16

コメント投稿フォーム

違反報告連絡フォーム


お名前

違反の内容