招待状にかえて

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「披露宴の音楽どうする?」と彼女に聞かれて、あの曲が頭に浮かんだ。

親父のレコード。黙って持ち出したのは何故だったろう。聴きすぎて傷がつき、A-1から音が飛んだ。それでも気が向けば針を落とした。親父が死んだという知らせを聞くまでは。

手放したレコードは案外高く売れた。いくら盤質が悪かろうと、欲しい人はいる名盤だったのだろう。だから三年前、たまたま入ったバーで聴き覚えのあるメロディが流れ始めても、さほど気にしなかった。でも同じところで音が飛んで…。驚いて顔を上げた時、カウンター越しに目が合ったのが彼女だった。

「もちろん覚えてるわよ。曲も。検索してみよっか」

便利な世の中だ。携帯から流れ始めたイントロはあの時のまま…なんと…音が飛んだ。彼女は大きく目を見開いて、そして、爆笑しながらキスしてきた。

俺、来月結婚するよ。懐かしい曲が聴こえたら振り返ってみて。彼女、改めて紹介するからさ。
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公開:20/12/16 20:45

糸太

400字って面白いですね。もっと上手く詰め込めるよう、日々精進しております。

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