運命の口

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「さあ、審判の時間です」
予言の書でも紐解く様な勿体ぶった仕草で、そいつはオーブンを開けた。引き出された天板から甘い香りが漂う。
「……スコーン?」
イギリスの焼き菓子だ。アフタヌーンティーには遅過ぎるな。時計の鐘を聞きつつ戸棚から皿を出す。
「スコーンの名は『運命の石』が由来とされます。王の戴冠の儀に際し、玉座を支えた聖石。ゆえに刃物を入れるのはご法度、手で割っていただくのが正しい作法です」
どうでもいいから出てけ。言ったところで、真夜中に人の台所に侵入した上、菓子なんぞ焼く変質者が従うとも思えない。恭しく置かれたスコーンは、横腹が大きく裂け、今にも笑いだしそうだ。
「『狼の口』が開きました。……始まりますよ」
裂けた縁はギザギザ尖り、なるほど並んだ牙が見える。どういう『審判』か知らないが、来るなら来い。
マント代わりにナプキンを巻き、唸りを上げる小麦色の狼に、ナイフとフォークを構えた。
ファンタジー
公開:20/12/15 20:32
この後、美味しくいただきました

創樹( 富山 )

創樹(もとき)と申します。
前職は花屋。現在は葬祭系の生花事業部に勤務の傍ら、物書き(もどき)をしております。
小石 創樹(こいわ もとき)名にて、AmazonでKindle書籍を出版中。ご興味をお持ちの方、よろしければ覗いてやって下さい。
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ベリーショートショートマガジン『ベリショーズ』
Light・Vol.6~Vol.12執筆参加
他、note/monogatary/小説家になろう など投稿サイトに出没。

【直近の受賞歴】
第一回小鳥書房文学賞入賞。2022年6月アンソロジー出版
愛媛新聞超ショートショートコンテスト2022 特別賞受賞

いつも本当にありがとうございます!

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