鍋の季節

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 ルミは台所に飛び込んだ。
「今日のご飯なに?」
 母が振り返って答える。
「鍋よ」
「やったー!」
 いや、まだ喜んではならない。ルミは身構えた。
「なに鍋?」
「ヒト」
 歓喜は絶望へ。
「うわぁぁ……」

 ルミは鍋からアクを取っていた。
「アクが多すぎるから嫌なのよ、ヒトって。そのわりに美味しくないし」
「それはアクを完全に取れていないからよ」
「完全に取るって、何百年かかると思ってるの?」
「母さんね、一度だけ食べたことがあるの。素のヒトを」
 母があまりにうっとりとした表情するので、ルミは無意識のうちに生唾を飲み込んでいた。
「ど、どうだったの。味」
 母は微笑を浮かべた。
「やわらかくて…………純粋」
 
 意味がわからなかった。わからなかったから、ルミはひたすらにアクを取った。
ファンタジー
公開:20/12/15 20:06

shomin shinkai( 日本 )

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