オリオンを探す

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「オリオン座が冬にしか見えないのは、夏の夜空には蠍がいて、オリオンを追い掛けているからなんだ」
白い息を吐き出しながら、夜空を見上げた彼は目を爛々と輝かせながらそう言った。その隣で、僕は「ああ、またか」と溜息をつく。
「神話なんて所詮作り話みたいなもんだろ。地球が回転して、見える星とその並びがが変わってくるだけじゃないか」
「でも、その方が面白くないかい?ああ、いつか本物のオリオンに会ってみたいなぁ」
頬を真っ赤にしてそう笑う彼の表情は、今でも良く覚えている。



大学の研究室の窓を開けて、夜空を見上げた。突然入り込んだ冷気にゼミ生達が文句を言うけど、気にしない。視線の先では、オリオン座が輝いている。

「…本物のオリオンには会えたかい?」

今はもういない親友に向かって、そんな言葉を投げ掛けてみた。

「あ、流れ星!」
生徒の一人が声を上げる。
何故だか、彼のあの表情が見えた気がした。
その他
公開:20/12/15 12:52

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