理想と現実のクロスロード

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パンを口に挟んで、十字路へ向かって走っていく。全速力。そのままブロック塀の先へ飛び出すことなんて普通には考えられないが、その人はやってのける。
案の定、交差点で誰かとぶつかって倒れる。ひどい事態が想定されるが、その実二人ともに大した怪我はない。大丈夫ですか? 男が手を差し伸べる。はい、とか、ええ、とか言いながら立ち上がる女。目を合わせる二人。互いの無事を確認して一旦は落ち着いた鼓動が、再び強まっていく。
「やばい」
「やだ、いけないわ」
そう。彼らには時間がないのだ。腕時計だかスマホの時間を確かめ、片方のどちらかが先に走り去っていく。残されたもう一人は遠のいていく異性の背中を一瞥し、早く行かなければと自身を鼓舞するが心が乱れていて足はまだ動かない。
何かが落ちている。小さなぬいぐるみのキーホルダー。


定時に間に合うようゆっくりと交差点に足を踏み入れながら、今日もひとりで夢を見ている。
その他
公開:20/12/15 07:00

レオニード貴海( 某海なし県 )

さまようアラフォー主夫

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