ゆかりさんのリボン

　小学生の頃、僕たち子どもの間で「ゆかりさんのリボン」の噂が流行った。

　ゆかりさんは町の外れに一人で住む不思議なお姉さんだ。長い黒髪に紫色のリボンを編み込んでいる。そのリボンが一本や二本どころではないため、少しばかり現実とは思えない雰囲気を醸し出していた。不気味に思う人もいたけど僕は好きだった。

　噂の内容は、ゆかりさんのリボンを一本解いて貰うと、なんらかの繋がりのある人を引き寄せられるというもの。一本で一縁。まるでクジだ。望まない因縁に気付かされる可能性もあり、噂話が盛り上がっても実際に試しに行く人はいなかった。僕以外は。

　あの頃、僕が手繰り寄せた縁の中に、ゆかりさんとの明確な繋がりは含まれていなかった。ゆかりさんの元に通い詰めて、リボンを解いて繋がりを求めて、もう何年経っただろう。

　今、僕は子どもの間で「ゆかりさんのリボン」に縛られて逃げられない人だと噂されているらしい。