思いやり自販機

16
19

瀬戸内海を臨む港町にあるうどんの自販機。
真冬になると身も心も温まるうどんが評判だった。
この自販機は戦後まもないころからあって、一杯一〇円という庶民的な値段で、お腹を空かしたひもじい人たちの胃袋を満たした。
それから故障などで自販機は何度か代替わりし、値段も物価の関係で一杯二〇〇円まで上がったが、うどんの味は全く変わることがなかった。
老若男女問わず数多くのひとたちが、うどんを食べてほっと安らぎを得て笑顔になった。徐々にリピーターも増えていき、遠くからはるばる訪れるひともいた。
うどんを食べていた当時の子供が大人になって親となり、幼い子を連れて懐かしい味を求めてやってきた。
時には人生を諦めてこの地に辿り着いたひとの気持ちを満たし命も救った。
そんな自販機もとうとう撤去されることになった。
そして最後の日ーー。たくさんの思い出とともに自販機に巣を作っていたツバメが颯爽と旅立っていった。
青春
公開:20/12/12 07:02
瀬戸内海 港町 うどん 自販機 真冬 戦後 老若男女 子供 大人 ツバメ

SHUZO( 東京 )

1975年奈良県生駒市生まれ。奈良市で育つ。同志社大学経済学部卒業、慶応義塾大学大学院政策・メディア研究科修了。
田丸雅智先生の作品に衝撃を受け、通勤中や休日などで創作活動に励む。
『ショートショートガーデン』で初めて自作「ネコカー」(2019年6月13日)を発表。
読んでくださった方の琴線に触れるような作品を紡ぎだすことが目標。
2022年3月26日に東京・駒場の日本近代文学館で行われた『ショートショート朗読ライブ』にて自作「寝溜め袋」「仕掛け絵本」「大輪の虹列車」が採用される。

コメント投稿フォーム

違反報告連絡フォーム


お名前

違反の内容