森化する部屋

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夜中にふと目を覚ますと、背中の感触がベッドとは何だか違った。しめった草と土の匂い。虫の声や葉音。頭上に枝が広がっていて、枝の間には星が瞬いている気がする。
はっと起き上がって電気をつけると、何てことはない自分の部屋だ。

この頃、いつもそうだ。

先日、白い壁に傷をつけてしまった。
その時、旅行先の画材店で買った絵具で塗りつぶした。トリックアートみたいに、壁に穴があってその向こうに森が見える絵を描いた。

それからだ。机に向かっていると、後ろで鳥の羽音がする。本棚から本を取りだすと、小さな花のついたつる草が手にひっかかる。
朝いちのシャワーでは、蛇口をひねると魚が飛び出した。洗面器の中をくるっと一回転したかと思うと、シャボン玉のように消えてしまった。

絵を塗りつぶそうかとも思ったが、何もしないことにした。
森の気配だけならいっかと。

窓も開けてないのに、今日もそよ風が耳元を抜けていく。
ファンタジー
公開:20/12/13 12:50
部屋

字数を削るから、あえて残した情報から豊かに広がる世界がある気がします。
小さな話を読んでいると、日常に埋もれている何かを、ひとつ取り上げて見てる気分になります。

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