親父の言葉

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中三の秋に傷害事件を起こし、翌年の一月に家裁から出頭命令が出た。
その日に登校したがすぐに家に戻された。家では親父が憮然とした顔で待っていた。何も言わずに俺を連れて車で家裁へ向かう。
家裁では散々説教された。最後に職員は親父に、
「あなたはこの子の本当の父親ではありませんね。こんな事件を引き起こしたのも家庭に原因があったのではないですか」
冷たい声で言い放つ。親父はひたすら謝罪を重ねるだけだ。
帰りの車中、俺は後悔していた。高校にも行けなくなるかもしれない、と。
すると黙っていた親父が口を開く。
「大丈夫だから、心配するな」
それだけだったが急に胸が熱くなり、頬に涙が伝わった。

二十年後、親父は肝臓癌で死んだ。俺がしてやれたのは孫の顔を見せることだけだったが、親父は満足そうだった。
息を引き取る直前、
「何も心配しなくていいから……」
と親父は言った。そして、それが最期の言葉だった。
その他
公開:20/12/11 11:14

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