ファイター

フードファイター白田菜津子は薄れゆく意識の中、大勢の腕が自らを支え、何処かへ運んでいくのを感じていた。

昔から得意なことがなかった。なにをしても、うまくいかない。

「人と比較する必要はないのよ」
母はよくそう言って慰めてくれた。
あなたはあなたなのだと。

でも現実は、どうだろう。私が私であることにどれほどの意味があるのかわからない。というか、私って、何？
人生がつまらないとか、そういうわけじゃないけど、これが私の生きる道、みたいなものはずっと見つけられなかった。

中学生の頃、フードファイトというものがあるのだと知ったときも、心底馬鹿にしていた。なんだこれ、汚いし、かっこ悪い。絶対やりたくない。


59本目のホットドッグを喉につまらせ、涎を垂らしながら緊急搬送されるいまの私は、いったい何者なんだろう。

「あなたはあなたよ」

思い切りむせると、喉につかえていたものが飛び出した。