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枕元にあるクマの人形を手に取った。
何年前の今日だろうか。ツリーの下に置かれていたあの日から、私の人生の大半を見てきた君。私の涙を何粒飲んだのだろう。
私は、君をリュックに入れてクリスマスの街にくり出した。すると、おもちゃ屋さんのガラス窓から君と同じ顔がこちらを見ていた。
「ここで買ったんだ」
プレゼントを選ぶ母を想像しようとした。出来なかった。私は母の立ち姿も笑い方も忘れてしまったんだ、本当に。
代わりに思い出す。母が死んだ年に君と出会ったこと。
その時、向こうの君を手に取った女性がいた。ふと蘇る。母の立ち姿、笑い方、声、握った手。だけど、どうしても母の顔が思い出せなかった。今までそれだけは忘れたことがなかったのに。
女性はガラス越しでも届いてしまう私の視線に気がついて、向こうの君をそっと戻した。
「ふわっ」とリュックが軽くなった。

彼女が背を向けた瞬間、母の顔を思い出した。
ファンタジー
公開:20/12/11 03:20
更新:20/12/14 00:13
親子 クリスマス 思い出 別れ

花青時雨(カセイ シグレ)

アイコン描きました(/∀≦\)

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