椿

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 家族のいる兄貴が相続すればいいと思っていた。
 親父の急死後、不動産を老母、兄、自分で三等分する手続きをした。結果的に不肖の自分は家を出なくて済んだ。
 「たわけ者」とは、田畑を相続で分けてしまう「田分け」に由来するらしい。自分も土地の分割に反対だったから悔いが残った。
 未婚の自分が相続しても、いづれは唯一人の甥が継ぐだろう。
 以前、向かいのおじさんが亡くなり、更地になった時の空虚を思い出した。家が潰され、庭木が抜かれていく、あれが虚無感なんだと思った。
 老母が作業中の業者から椿の枝をもらってきた。ピンクの侘助である。おじさんは庭に無頓着な人だったが、おばあさんが花好きだった。結局、おじさんに子が無く、甥が整理したらしい。
 侘助は鉢植えになり、うちの庭で四度目の花をつけている。向かいも売れて新居が建った。
 あれ以来、庭木の挿木や実生を増やしたが、うちの甥は植物に興味がない。
その他
公開:20/12/11 03:01
椿

NfMM

54字に収まらなかったアイデアの捌け口。
あまり人の作品は読みませんので、悪しからず・・・

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