バラセン
22
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「あっ」
ぼんやり歩いていたら有刺鉄線にお気に入りのニットを引っ掻けてしまった。丁寧に糸をほどいたが、無残な糸が指の間でくにゃりと垂れた。
仕事でつまらないミスをして、ねちっこい上司にくどくどと小言を言われた時、今日はもう何も上手く行かない日だと諦めた。そうでも思わないと、好きだった先輩から結婚報告をされて笑顔で祝福なんて出来なかっただろう。ねちっこい上司の下手な手作りカップを片っ端から割ってやりたいくらい心がささくれだっていたが、自尊心が邪魔をして震える手で皆の珈琲を入れてしまった。
自動販売機でお汁粉を発見し、もうそんな季節なのかと白い息を吐き出した。バス停のベンチに座って缶をパカリと開け、少しぬるいお汁粉を飲む。
「甘い」
思わず漏れた声にバス停に来た男性がふっと笑った気がした。彼も自動販売機で飲み物を買って隣に座った。
「ーー甘い」
思わず笑みがこぼれる。
ぼんやり歩いていたら有刺鉄線にお気に入りのニットを引っ掻けてしまった。丁寧に糸をほどいたが、無残な糸が指の間でくにゃりと垂れた。
仕事でつまらないミスをして、ねちっこい上司にくどくどと小言を言われた時、今日はもう何も上手く行かない日だと諦めた。そうでも思わないと、好きだった先輩から結婚報告をされて笑顔で祝福なんて出来なかっただろう。ねちっこい上司の下手な手作りカップを片っ端から割ってやりたいくらい心がささくれだっていたが、自尊心が邪魔をして震える手で皆の珈琲を入れてしまった。
自動販売機でお汁粉を発見し、もうそんな季節なのかと白い息を吐き出した。バス停のベンチに座って缶をパカリと開け、少しぬるいお汁粉を飲む。
「甘い」
思わず漏れた声にバス停に来た男性がふっと笑った気がした。彼も自動販売機で飲み物を買って隣に座った。
「ーー甘い」
思わず笑みがこぼれる。
青春
公開:20/12/10 23:13
射谷 友里(いてや ゆり)と申します
十年以上前に赤川仁洋さん運営のWeb総合文芸誌「文華」に同名で投稿していました。もう一度小説を書くことに挑戦したくなりこちらで修行中です。感想頂けると嬉しいです。宜しくお願いします。
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