出汁が決め手の鍋料理

0
3

婆ちゃんが作った鍋料理を父が「美味しい美味しい」と食べている。
僕にはこの鍋料理の何が美味しいか全く分からない。
「そりゃ、お前にはこの鍋料理に使われた素材に思い出がないからだよ」
そう言って父が鍋の中身を僕に見せてきた。
鍋の底に古びた野球のグローブが沈んでいる。
「このグローブにはな、父さんの青春時代が詰まっているんだ。思い入れのある品で鍋料理を作る。これは思い出汁っていう料理方法の一つなんだぞ」
そうなんだ…
「母さんもグローブの味が大好きだったな…」
父の昔話が始まった。付き合ってられないとばかりに僕は別の鍋に箸を伸ばす。うん。こっちの料理は凄く美味しい!
「その鍋にも思い出汁が使われているぞ。底を見ろ。母さんの遺骨、いい思い出汁が取れてるだろ?」
父は去年亡くなった母の遺骨を墓にも入れずずっと手元に置いていた。これが目的だったんだ…
母の味を噛みしめる。涙が出るほど、鍋が美味い。
ホラー
公開:20/12/11 20:21

幸運な野良猫

元・パンスト和尚。2019年7月9日。試しに名前変更。
元・魔法動物フィジカルパンダ。2020年3月21日。話の流れで名前変更。
元・どんぐり三等兵。2021年2月22日。猫の日にちなんで名前変更。

コメントはありません

コメント投稿フォーム

違反報告連絡フォーム


お名前

違反の内容