ときめき

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 席替えを機に、俺はまったく授業に集中できなくなっていた。勉強より他に、心躍るものを見つけたのだ。
 教室の中心地。俺ははじめ、自分のくじ運の良さに感謝した。黒板を真正面から見られる場所を有したからだ。他の誰よりも勉強の虫が、高校入学後も続いた相田姓の呪い——前列廊下側角の席——からやっと解放されたのだ。
 しかし今俺は、前に座る女子の背中を隠すほどの長々とした髪の毛に視線を奪われ、最も好きな科目の生物の興味深い話にすら耳を傾けることが困難になっていた。

「余談だけど——」余談だけは聞き逃せないと、とっさに俺は意識だけを先生に向けた。「ムカデは漢字で書くと百足だ。でもな、実はムカデの脚は百本じゃないんだよ。むしろそれはあり得ない。なぜかわかるか?」

 俺は目前の愛しの、女子のバザバサの髪の毛の中にいるムカデの脚を数えだしていた。
青春
公開:20/12/10 16:50

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