札束のアルゴリズム

投資家カメレオン氏の狡猾さは業界では知らぬものはない。これと狙った企業は必ず有利な条件で買収する。そしてまもなく売却する。あとにはたくさんのキャッシュが手元に入る。氏のやり口の特徴は株価操作にあるらしい。誰も気づかない独自のアルゴリズムを駆使して有利な株価へと誘導する。氏の屋敷には莫大なお金が溜まった。氏はお金をどこにも預けない。札束の山を眺めるのが至上の悦びである。
札束に囲まれていたある日、氏はあることを思いついた。こんな素敵な時間を味わわせてくれる札束を時間をかけて苦労して手に入れる事はない。札を作ってしまえばよいのだ。鑑賞するだけなら罪にはなるまい。そうして印刷機械を搬入し秘密の地下工場で札を、つまり贋金を作り始めた。どんどんとお札が印刷されてくる。積み上げられる札束の山に埋れて氏は至福の時間を過ごした。そしてその名に違わず、カメレオン氏自身が札束の化身となっていった。