少女の伝言

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 「お兄ちゃん」
 母校での教育実習。放課後、後ろから呼び止められた。僕は振り向き、息をのむ。制服姿の華奢な少女が立っていた。
 高校時代、瓜二つの恋人がいた。
 予鈴が鳴って教室に駆け込む時。青空を眺めて屋上で弁当を食べる時。手をつないで帰る時。彼女はいつも隣にいた。彼女は僕の半分だった。
 四年前、僕と彼女は喧嘩した。彼女の浮気を疑ったのだ。
 「誤解だよ。君は私の半分なのに……」。切なげに唇を嚙み、彼女は立ち去った。
 翌朝、彼女の事故死を知らされる。車が突っ込んだのは十八時。別れたすぐ後だ。浮気の誤解はすぐ解けた。
 泣いて悔やんだ。詫びることすら叶わない。もう恋はしない。僕は誓った。
 生き写しのような少女が、目の前に立っている。
 「姉からは『お兄ちゃんになる人だ』と聞いていました」。少女は微笑み、言葉を継いだ。
 「姉の最期の一言です。『大好きだから君を許すぞ。幸せになれ』」
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公開:20/12/08 01:16
更新:20/12/10 12:41

掌編小説( 首都圏 )

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イラストはミカスケさん(https://twitter.com/oekakimikasuke)やノーコピーライトガールさん(https://twitter.com/nocopyrightgirl)の作品です。写真はフリー素材を利用させていただいています。

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