夕暮れ自動販売機

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僕は涙を浮かべながら五百円玉を夕暮れ自動販売機に入れた。
ボタンを押すと小さな夕日の欠片が落ちてくる。僕のお小遣いじゃ一番小さな夕日の欠片しか買えない。
僕は持ってきた耐熱袋に夕日の欠片を入れると家に急いだ。
「ただいま!」
家に帰ると皆が待っていた。
「タマは!?」と息を切らせながら聞くと「まだ大丈夫よ」とママが答えた。
震える僕の肩にパパがそっと手を置く。その手も震えていた。
僕は浅い呼吸を続ける老猫のタマの口にそっと夕日の欠片を近づけた。
タマはそれを熱がることなく口にする。
ボロボロだったタマの毛が綺麗なオレンジ色へと変わった。
タマは起き上がると僕達を一度だけ振り返り、空に、夕日に向かって駆け上がった。
これでもう、タマには会えない。涙が零れる。
だけど老衰で死ぬより、夕日の一部になったほうが絶対いい。
だって夕暮れを見る度に思い出せるから。
だからタマ。夕日になっても元気でね。
公開:20/12/07 19:34

幸運な野良猫

元・パンスト和尚。2019年7月9日。試しに名前変更。
元・魔法動物フィジカルパンダ。2020年3月21日。話の流れで名前変更。
元・どんぐり三等兵。2021年2月22日。猫の日にちなんで名前変更。

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