糸状菌の夜

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失踪した女性司書を追う老刑事は彼女の奇妙な習癖を掴んだ。彼女は毎夜、資料室で二十分ほど過ごしていた。刑事が資料室に入ると書棚、段ボール箱に挟まれて小さなテーブル。小瓶が十個並んでいる。
関係者の証言では、彼女は小瓶に一本ずつ指を入れていたらしい。この液に指を浸していたのか。刑事は小瓶を鑑識に回した。
翌日、鑑識がやってきた。「糸状菌です」「シジョウキン?」「糸状の胞子で増える菌類で瓶には十種類の菌が培養されています。皮膚病を発症する菌もあり、指を漬けたなんて解せませんね」
刑事は考え込む。女性司書は何をしたかったのか?思わず瓶に指を突っ込んで追体験してみたのは刑事の習性か。十本の指をそれぞれ瓶の液に浸した。指は何ともない。
その夜に夢を見た。刑事の指先が胞子となり、手から上腕、肩へと菌類になる。不思議に気分はよかった。身体ぜんたいが菌類になると胞子は飛びはじめ、闇のなかに飛び立っていった。
その他
公開:20/12/07 17:37

たちばな( 東京 )

2020年2月24日から参加しています。
タイトル画像では自作のペインティング、ドローイング、コラージュなどをみていただいています。
よろしくお願いします。

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