夕暮れ自動販売機

その自動販売機は日中、日の当たらない薄暗い路地の奥で息を潜めている。
電気は点いておらず、駆動音もしない。商品のディスプレイすらされていないその箱を誰も自動販売機とは思っていない。
しかしその自動販売機は夕日を浴びる事で稼働し始める。夕日を浴びている間しか稼働しない事から夕暮れ自動販売機と呼ばれている。
そんな自動販売機で売っているものはかなり変わっている。
この自動販売機は”空気”を商品として売っている。
一番人気はハワイの空気。他には友人の家の空気や職員室の空気に新築の家の空気なんてのも売っている。
以前、それらを試しに買ってみると納得の空気が漂ってきた。
今日の私は高校最後の文化祭の空気を購入しに来た。
友人達と学校に泊まり込みが出来る特別なイベント。あのドキドキワクワクした空気がこの缶の中には詰まっている。
会社に泊まり込みで仕事している仲間も、この空気で少しは元気が出るといいな。