カニのつぶやき

ボクは横にしか歩けない。

ボクはチョキしか出せない。

ボクたちカニのことを、人間は、不自由だと哀れんでいるのだろうか。蔑んでいるのだろうか。

海の底で、ただひたすらに横へ横へと歩き続ける。横にしか進めないから、気がつけば地球を一周、なんて時もある。すると、地球の広さ、大きさ、深さが、知らぬまに体の隅々まで染み込んでくる。

もし、下手に前や後ろにも動けたら、いかに自分がちっぽけな存在か、そんな自分を生かしてくれる自然がいかに偉大なのか、気づかぬままだったかもしれない。

ジャンケンで負けるのはわかりきっているから、勝負にはこだわらない。その向こうにある心の機微に、目を凝らし、耳を澄ますようになる。

すると、気づく。勝った負けたよりも大切な何かが、確かにあるんだと。

不自由だからこそ、わかることがある。

もっとも、自分が不自由だなんて、ボクたちカニは感じたことすらないけれど。