赤べこ

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「赤べかないならもう消えて」
香織は去り際に汁粉の入った鉢植えを私に投げてそう言った。
ここは老舗の甘味処。枯山水の庭に面したお座敷で私は香織にふられてしまった。
額からはあたたかいものが流れる。それは甘い汁粉と私の血だ。こめかみを垂れ、眉間を垂れ、傷口や目で味わう汁粉には深いコクを感じる。
なぜ鉢植えで汁粉を食べるのか。どうしてこの店には行列が絶えないのか。聞きたいことは山ほどあるのに混濁する意識と視界が赤一色に塗りつぶされてゆく。
それでも私は割烹着がよく似合う店の女将に尋ねた。
「男はやはり赤べこでしょうか」
「私も古い女ですからお連れさんの気持ちが痛いほどわかります」
私は血だらけの体がパリパリと乾いてゆくのを感じながら、今まで真剣に赤べこになる努力をしてこなかった自分を責めた。
「遅くはないです」
私は女将の言葉にただ頷きながら、駆け戻る香織の叫びを聞いていた。
「できんじゃん」
公開:20/12/08 16:55

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