来ちゃった

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「いやぁ、来ちゃったねぇ」
 由美はそう言いながら、電車に乗る前にコンビニで買ったお茶を一口飲んだ。
「来ちゃったねぇじゃないと思うんだけど」
 私は目の前にある駅名が記されたプレートを見て、絶望的な声を上げた。その看板には「きさらぎ駅」と記されていた。
「まあまあ、来ちゃったものはしょうがないよ。でも、あの都市伝説としか思ってなかったキサラギ駅が本当にあるなんてねぇ」
 由美はお茶を飲み終わると、クゥッと伸びをした。朱色の月光に照らされて、私たちは無人のホームに二人きりで立っている。
 乗って来た電車はすでに影も形もない。
 ホームの外は、人の背丈よりも高いススキが茫々に生えていて、中から人の啜り泣きが聞こえている。
「軽い異世界転移だと思えば大丈夫だよ。その内、駅員さんとか来てくれるんじゃない?」
 明かり一つない駅のホームで暢気に笑う由美が、私は何だか羨ましくなってしまった。
ファンタジー
公開:20/12/06 11:29
更新:20/12/06 11:30
マジックリアリズム 『幻想日和』

海棠咲

 幻想小説や怪奇小説を自由気ままに書いています。
 架空の国、マジックリアリズム 、怪談、残酷なファンタジー、不思議な物語が好きです。
 そこに美しい幻想や怪奇があるならば、どんなお話でも書きたいと思います。

 アイコンは宇薙様(https://skima.jp/profile?id=146526)に描いていただきました。

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