遭難ごっこ

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「遭難ごっこしよ」
交差点で信号待ちをしていたら彼女が突然言った。
「私が育った町の海は海流が複雑で、浮いているとすぐ沖に流されちゃうの」
彼女は真剣な眼差しで交差点の先を見ている。
「懐かしいな」
彼女はふっと哀しそうに笑った。

信号が青に変わりどっと人波に飲まれた。
僕は後ろの人に押されてつんのめり、繋いでいた彼女の手を離してしまった。
顔を上げると、彼女が人波の間からこちらを見ている。口を開き何か言ったようだが喧騒に掻き消された。
僕は彼女を目で追ったがすぐに見失ってしまった。追いかけようにも前から来る人にぶつかってうまく進めない。必死に伸ばす手が虚しく空を切る。まるで溺れた子供の様だった。

その日以来彼女は姿を消した。
僕は何も手につかず、ずっと彼女を探している。むしろ遭難したのは僕の方かもしれなかった。
誰かが僕らを見つけてくれるまで遭難ごっこは続くのだろう。
その他
公開:20/12/06 09:26

小川さら

口下手で面白い事が言えません。
だから書いてみます。

忌憚のないご意見をお待ちしております。
 

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