桜の娘

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 その娘は、桜の花弁を繋ぎ合わせて作られていた。細糸で実に器用に繋ぎ合わされた桜の花弁には、特殊な加工がされており、どれだけ経とうとも、その薄紅の色が褪せることはないようだった。
 私がこの娘に出会ったのは、秋の山でのことだった。紅葉の色づく山道を歩いていると、ボンヤリと佇んでいる娘を見かけた。
 娘は私がやって来ると驚いたような顔をした。私自身も、桜の花弁で作られた娘を見てギョッとしたが、二言三言、言葉を交わす内に、互いに緊張は解けて行った。
 私も富山の薬売り、先を急ぐ行商の身であったから、娘と交わした会話は実に短いものだったが、彼女は、遠い昔にとある薬屋に命を吹き込まれたのですと言っていた。その薬屋とはもう永遠に会えなくなりましたが、とも。
 その実に寂しげな様子が、娘と別れて大分経つ今でも、妙に印象に残っている。
 そして、時折思うのだ。
 あの娘は今、どうしているのだろうか、と。
ファンタジー
公開:20/12/07 07:50
マジックリアリズム 『幻想日和』

海棠咲

 幻想小説や怪奇小説を自由気ままに書いています。
 架空の国、マジックリアリズム 、怪談、残酷なファンタジー、不思議な物語が好きです。
 そこに美しい幻想や怪奇があるならば、どんなお話でも書きたいと思います。

 アイコンは宇薙様(https://skima.jp/profile?id=146526)に描いていただきました。

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