縁の品

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 三年前に父親が亡くなった際、彼の遺言で、日野さんは古めかしい木箱を貰った。
 その木箱は真田紐で綺麗に縛られており、間に小さなメモが挟まっていた。
「これは日野家が代々伝えて来た縁の品です。長男だから云々という話はあまりしたくはありませんが、こればかりは長男のお前が死ぬまで大切に持っていて欲しいのです」
 震えてはいたが、間違いなく父親の筆跡だったという。
 その晩、日野さんは気になって木箱を開けてみた。すると、中から薄い和紙で包まれたものが出て来た。
その和紙を開いて、日野さんは思わず悲鳴を上げていた。中には、干からびた小さな獣の手のようなものが入っていたのだ。
 その手がテーブルの上にポトン、と落ちた瞬間、日野さんの耳元で声が聞こえた。
「えろうすんませんなぁ、お世話になります」
 落ち着いた女性の声だったそうだ。
 それを聞いて捨てられなくなっちゃって、と日野さんは苦笑いしていた。
ホラー
公開:20/12/05 12:50
怪談 『刹那怪談』

海棠咲

 幻想小説や怪奇小説を自由気ままに書いています。
 架空の国、マジックリアリズム 、怪談、残酷なファンタジー、不思議な物語が好きです。
 そこに美しい幻想や怪奇があるならば、どんなお話でも書きたいと思います。

 アイコンは宇薙様(https://skima.jp/profile?id=146526)に描いていただきました。

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