海町観測

2
4

 五畳半のアパートを抜け出した。砂利の駐車場に立つ君を中古車の軽四で迎えに行く。部屋着のままのふたりを乗せ、常夜灯も少ない暗闇を登ってゆく。
 僕等は大学四年生。暇を持て余していたはず。ずっと続く気がしていた。卒業後、この町で移動図書館の職員をする僕。アニメーション作家を志す君も、この町に留まりウェブデザイナーをする。
 くもりを落とす為窓を下ろせば氷を散らす。君の指先が残した落書きが消える。コンビニの灯りが眩しい。マフラーに埋もれる君の赤い頬が照らされた。カイロ代わりにミルクティを分け合う。
 丘に着いた時、ふたりして言葉を失くした。展望台から見降ろす僕等の海町の光が綺麗だ。これからも、この町で、ふたりで。
「小さな町だよね」
「あれが僕の就職先」
 僕は港の辺りを指差した。
「君はどこらへん?」
 君は僕と町に背を向けなにもない海を指差した。
「えっ?」
 その海は東京へ続いていた。
恋愛
公開:20/12/05 10:00
更新:20/12/28 11:21

木戸要平

講談社が運営する小説投稿サイト
NOVEL DAYSにて執筆中
https://novel.daysneo.com/sp/author/Sisyousetu/
 

コメント投稿フォーム

違反報告連絡フォーム


お名前

違反の内容