えんもゆかりも

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「佐藤じゃないか」
佐藤は見覚えのない顔に困惑した。
「俺だよ。鈴木だよ」
「鈴木さん?」
「縁もゆかりもない鈴木だよ」
そうはっきり言われると妙に安心した。最近ではますますヒトの顔が覚えられない。
鈴木は人懐っこく、佐藤について話し続けた。全国の1.5%が佐藤で180万人もいるはずなのに、鈴木は今まで佐藤と知り合う機会がなかったという。
日本で佐藤が一番多いだなんて実はデマなのではないか。
鈴木は毎日一人ずつ声をかけては佐藤を探すようになった。
「やっと会えたよ」
言われてみれば佐藤にも鈴木という名字の知り合いがいなかった。というより佐藤はヒトの名前も顔もどんどん忘れるようになっていた。なんだかいい予感がして、思いがけず鈴木の両手を掴んでいた。
「ねぇ、明日も私を探してよ」
佐藤は目を丸くした。
「毎日毎日言ってよ。佐藤じゃないかって」
毎日毎日言ってよ。やっと会えたよって。
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公開:20/12/05 20:27

puzzzle( 神奈川19区 )

作文とロックンロールが好きです。
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