始発列車

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 始発列車を待っていた。まだ眠りの中にある町。静けさ漂う空気の中にも、僅かながら熱を感じる。光の粒を乗せたベンチ。突き抜けたトラック。歩道橋の上、半透明の月。
 四年半ぶりの再会だった。言いかけた言葉は呑み込み、踏み込めずに朝を迎える。あの頃は僕が列車に乗り込み、彼女がホームで見送った。「またね」と言い合って。今日は僕が東京へ帰る彼女を見送る。
 どれだけ時間を費やしたところで、一ミリも距離を縮めやしないことに今更ながら気づく。あどけない歳月の解答欄は白紙のままに。
 少しずつ温められる世界。まだ誰も知らぬ真新しい朝がもう直ぐ訪れる。回り始める町の片隅で。発車を告げるベルが無人駅鳴り響く。
「えっ?」
 彼女は往復切符を半分に千切り一枚僕へ渡した。そして列車へ乗り込む。
「ま……。」
「さようなら」
 地鳴りの様なけたたましい音を残し、僕の前を列車が突き抜けた。一瞬の静寂。
 全てを悟る。
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公開:20/12/05 16:21
更新:20/12/28 11:24

木戸要平

講談社が運営する小説投稿サイト
NOVEL DAYSにて執筆中
https://novel.daysneo.com/sp/author/Sisyousetu/
 

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