夕暮れ自動販売機

最近の居酒屋では個室ごとに夕暮れ自動販売機が置かれてある。
夕暮れ自動販売機とはジュークボックスのような物で、お金を入れると『夕方に流れるあの音楽』が流れる。
『あの音楽』と言われても、それは住んでいる場所によって違う。
なので夕暮れ自動販売機にお金を入れては「俺の故郷ではこの曲だった」「私の町ではこの曲でした」と話に花を咲かせる。
話題の種にもなる夕暮れ自動販売機の効果はこれだけでない。
夕方に流れる『あの音楽』とは帰宅を促す音楽である。それを聞き続けると人は自然と『家に帰らなければ』という心理に陥る。
さらにその効果が深いと実家に帰りたくなってくる。実家を思い出し涙を流す者も出てくる。
そんな者達を見て、会社の飲み会では上司が一つの決意を固める。
「お前達！今度の長期連休は実家に帰れるほどの休みが取れるよう俺が何とかしてみせる！」
『あの音楽』は上司の善良な部分をも揺さぶってくれる。