ただよう恋人

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ぼくの彼女はよく宙に浮いている。足が地面を離れて身体が空をただようのだ。

大学の学園祭でライブをやった日、彼女は文字どおり浮かれていた。自作の曲が校内のラジオで取り上げられてお昼の時間に流れたとき、彼女は文字どおり舞い上がっていた。

風の強い日は少し心配だった。身体の小さい彼女がどこかに飛ばされてしまわないかと、気が気ではなかったから。

大学を出てから三年後、ぼくらは結婚した。

いつもただよっていた彼女は、中学校の先生になり、だんだんと地に足がつくようになった。けれども大好きなクラスの子たちの話をするときは、やっぱりふわふわしていた。

昨日に彼女は亡くなった。風の強い日だからずっと手を握っていた。けれども彼女は行ってしまった。

寂しくないといえばうそだ。でもわかる。いつだって彼女は、ぼくを見てくれている。

ほら、いまも空のあの辺をただよっている。
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公開:20/12/03 07:59
更新:20/12/03 08:19

善良なおじいさん( 大阪府 )

善良なおじいさんです。

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