魔女の相棒

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危うく心臓が止まるところだった。
「普通に出てきてくださいよ」
僕の抗議に耳を傾ける気はないらしく、彼女は荷物を下ろしてふああ、と気の抜けた声を漏らしながら伸びをした。
「だって楽なんだもの」
「大した手間でもないでしょう。せめて、ベルを鳴らしといてください。いきなり壁から出てくるのは本当にやめて」
と、彼女はカバンから小さな袋を取り出した。なにやら細かく蠢いている。僕は一瞬で戦意を削がれた。
「まさか……」
「上物なんだから心してちょうだい」
結び目が解かれると、中から無数のコオロギたちが這い出して来た。
体つきが違う。逞ましい後脚、艶めく翅、太い胴体、立派な尾毛、黒曜石の瞳。
素早く舌を伸ばして捕らえる。一匹、二匹……あっという間に十匹が、僕の喉奥へと消えていった。

「で、次の依頼なんだけど、浮気現場の潜入捜査なの」
気が向かなかったが、依頼料を胃袋に収めた僕に断る術はなかった。
ファンタジー
公開:20/12/04 07:00

レオニード貴海( 某海なし県 )

さまようアラフォー主夫

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