ひと雫の群れ

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ボラの群れが川を遡る朝。草原では最後に笑った遊牧の民が鳥葬で自然へと還り、魂の分配は蒼空に雲のちぢれで描かれた。
その雲のひと雫である私は、笑わぬ魂だけが暮らす島の冷たい山の稜線に降り落ちて、名ばかりの春に震えながら先人たちが仕掛けた罠を見てまわり、やはり笑いなど絶滅した山を下りてボラの泳ぐ川を目指した。
私の前を老爺の魂が流れ、私の背後を老婆の魂が歩く。番う彼らを邪魔する野暮は避けたくて、河津桜を見上げたりして道を譲るのに、歩きだすとまた老婆の魂を抜いてしまう。この道をゆく魂はボラの群れの最後尾で泳ぐつもりなのだ。
川の中でフラミンゴ色のジャンパーを着たおじさんが見事なバランスで片足立ちのまま懸命にスプーン曲げをしている。その横顔を朝陽が照らすから私が思わず吹きだすと、冷めた魂たちは一斉に咎めるような視線を向けた。ひとりふたりと私につられて笑いはじめると、それで地球のブレーカーは落ちた。
公開:21/02/12 13:12
更新:21/02/12 13:15

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