おばあちゃん

下の台所でゴソゴソいう音がする。またおばあちゃんかと思いながら寝ぼけまなこで降りる。
『おばあちゃんねぇ、さっき夕飯食べたのにすぐ忘れちゃうの。ご近所中に聞こえる声で「ご飯、ご飯食べさせて！」って叫ばれたときはホントに参ったわ〜』
いつだったか母が電話でそう愚痴っていたのを思い出す。

台所を覗いたが姿はない。奥の仏間に行ってみると、おばあちゃんはお供えのザッハトルテに齧りついていた。私に気づくと急いで飲み込む。
『だってねぇ、おなかすいちゃって』
もごもごと言い訳する。
「いいよ、おばあちゃんそれ大好きだったでしょ」
おばあちゃんはキョトンとした顔で私を見上げて、それから仏壇の写真を見た。
『あたしこんな顔だったかねぇ』
そう言って消えた。

明日になったらまたザッハトルテを買いにいこう。あと、遺影は無修正版に替えないと。
おばあちゃんが思い出しやすいように。