中華飯店桜宝軒 黒酢酢豚1200円

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桜宝軒に看板メニューはない。らーめん、炒飯など定番メニューの他、通が頼むレバニラやチンジャオロース。料理の水準も人気も横一線で高いのだが、実は圧倒的不人気メニューも存在する。
「…何で酢豚なんだよ。」
唾を飛ばし、中央の席で喚き、男が妻の選んだ酢豚をこき下ろしていた。
「パイナップル入ってる訳もわからないモンなんか食うな!」
「まあまあ」なだめる妻。
無遠慮にらーめんをすする旦那を尻目に、「いただきます。」
妻は祈るのにも似た拝み手に、挟んだ割り箸を割り、光沢を孕んだ黒い餡に絡む酢豚を口に運ぶ。黒酢のキレのある酸味が豚肉の甘みと重なり、レンコンや少し硬さの残る玉ねぎとパプリカの食感がリズムを与える。美味しそうに食べる妻を見てあれほど言っていた旦那の口が湿ってくる。

「俺にも一口…」「ーーダメです。」
ピシャリと返され旦那は閉口する。

心の中で拍手をしたのは、厨房の店主だけではなかった。
その他
公開:21/02/13 00:41
更新:21/02/13 00:44
桜宝軒シリーズ

空津 歩( 東京在住 )

空津 歩です。

ずいぶんお留守にしてました。

ひさびさに描いていきたいです!


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https://twitter.com/Karatsu_a

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