思考しなくてもいい世界

1
4

僕は8時に起床した。仕事は9時から始まる。それまでにさまざまなことを思考しなければならない。だがそれがなくなればいいのにと思っている。それは思考しなくてもいい世界だ。だがそこに至るのはなかなか難しい。人付き合いもあるし、町にはさまざまな制約がある。そんなときだった。自らを監督と称する男が僕の目の前に出現した。
「カット、カット」
彼は言う。映画じゃないんだぞ、と僕は突っ込みたくなったが、彼は僕を思考しなくてもいい世界にうまく導いてくれた。そして僕のまわりの人たちも彼の言う通り動くことになった。こうして世界は形成され、僕が理想とする世界に近づいていくのだった。僕はそれが嬉しくて自然に笑みがこぼれるようになった。今まで思えば笑うことなんてなかった。しかし僕はいつしか彼を監督、監督と慕うようになるのだった。そんな監督は僕のことを特別気にかけてくれ、誕生日に時計をプレゼントしてくれるのだった。
その他
公開:21/02/12 20:00

コメント投稿フォーム

違反報告連絡フォーム


お名前

違反の内容