ほんの銀河の一掬い

20
12

少し前に、深く青い色をした陶器の茶碗を頂いた。なんでも高価なものらしいので、しばらく箪笥の肥やしにしていたのだが、ふと思い立ち妻に見せた。妻はいたく気に入り、上機嫌でじっと見つめている。
「石みたい。落としたら割れるの?」
「陶器だから割れるんじゃないか?」
丁重な手つきで、たまにしか飲まない日本酒を注ぐ。それをいつまでもそのままに、妻はただ見つめていた。
「まるで銀河のほとりね。宇宙をそのままくり抜いて、陶器の形にしたみたい」
「なら、これは銀河の一滴かい?」
「一滴ってもんじゃないわ。一掬い、あの空から頂戴してきたものよ」
あまり現実に空想を持ち込まないのが私の性分だが、妻の妄想に付き合うのは割と好きだ。
下戸の妻に頼まれて、宇宙の陶器を口元に傾ける。ただの陶器に安酒一献。それが妻の妄想で伝説に変わる。
銀河のほとりで作られた、宇宙の水のなんと甘く深いこと。それは、ほんの銀河の一掬い。
その他
公開:21/02/10 20:46
更新:21/02/10 23:54
1日1話 天目茶碗

風月堂( 札幌 )

400文字の面白さに惹かれて始めました!
文字や詩のようなものを書くのが趣味です。
情緒不安定気味でアゲサゲ落差のひどい人間ですw
いろんな方々の作品を読んで、心を豊かにしていきたいです。

無料の電子書籍をつくりました。
『ショートショート作品集カプセルホテル【】SPACE』
a.co/1VIyjHz

『枇杷の独り言』
ショートショートコンテスト『家族』最優秀賞頂きました。

写真は全て自前でやっています(笑)

こちらで写真を紹介、ハガキにと販売しております!
https://minne.com/@sakoyama0705  - ハンドメイドマーケットminne(ミンネ)

コメント投稿フォーム

違反報告連絡フォーム


お名前

違反の内容