小人の街にて、春。

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ビルの壁にもたれる君に声をかける。僕はチビだからスタイルの良い彼女を見上げて話をする。ビルの窓から顔を覗かせた人が、そんな僕らに手を振る。
すくすく育つ君を傍で見てきた幼馴染みの僕には当然劣等感もあったけど、今は気にしない。君もコンプレックスを抱えていることを大きくなった僕は知っているから。チビだけど。まあ、気にしない、君からすれば大抵はチビだろう。
今日は伸びすぎた彼女の髪を切りにいく。予約はしたし、たくさんのお願いも快く引き受けて貰えた。僕だって手伝う。
車を移動させ空っぽの美容室の駐車場には近所からかき集められた青いシートが敷き詰めてある。そこに座り込む君に長い梯子が掛けられると「高いところは平気なんだ」と微笑み美容師が上っていく。「風が気持ち良いよ。こんなトコで仕事が出来るなんてありがとう」
「出来たら、春らしく軽やかに」君が照れたように言うと、美容師が頷く。
きっと似合うと思う。
ファンタジー
公開:21/02/10 20:33

たそがれる猫の城

主にTwitterで140字小説やマイクロノベル等、短いお話をのんびりと書いています。

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