不死身の独裁者

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小さなノックだった。
しかし静かな生活を壊すには充分だった。
「あなたの力をお借りする時がきました」黒尽くめの男たちが言う。
「ここに閉じ込めたのは君達じゃないか。このまま静かに余生を送りたい」
「それは誤解です。あなたの身を守る為に隠れていただいたのです」
私は描きかけの油絵を示した。一度も見たことのない海が描かれている。
「あの絵だけは仕上げたい」
「これからは実物を見れる機会を設けますので」
「ふざけるなっ!」
屈強な男たちに一瞬だけ狼狽の色が見えた。私と分かっていても恐らく反射なのだろう。
兄はどれ程の恐怖で彼らを支配しているのだろうか。
「できない…兄とは違う。何も知らない」
「ただ居てくださるだけで結構です」
「…勅令なのか?」彼らはかぶりを振る。
「…死んだのか」
それは同時に双子の弟も死んだ瞬間であった。
「行きましょう。殿下」
不死身の独裁者はキャンパスの海を眺めていた。
その他
公開:21/02/10 11:01

吉田図工( 日本 )

まずは自分が楽しむこと。

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