地元の神社

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この町の神様は青を好むと言われていて、神社には毎年青い工芸品が納められる。今年はこの冬一番に採れた空の染物が奉納されたらしい。
建てられた当時は真っ白だったというが、今は社も鳥居も、敷き詰められた砂利もうっすらと青みを帯びている。
雨が降るたび神社に植えられた紫陽花の色が、滴って移ったのだそうだ。

紫陽花に染まった神社は、日中いつ来ても夜明けの前のまま時間が止まったような様子だ。

だからだろうか。神社というと、あの日、鳥居の前で一人立ち尽くしていた時のことを、思い出す。気づいたらそこにいて、時間の経過が分からなかった。ひどく長い時間のような、少しの間のような。
緑の濃い匂いと、山から下りてきた冷気を含む風は、今でも肌に感じる。
そのわりに覚えていない。あの日、どうして神社に行ったのか、何をしていたのか。
その後も変わりなく過ごしているが、何かを忘れてきたような感覚を、引きずっている。
ファンタジー
公開:21/02/11 16:22
神社 冬空染め

字数を削るから、あえて残した情報から豊かに広がる世界がある気がします。
小さな話を読んでいると、日常に埋もれている何かを、ひとつ取り上げて見てる気分になります。

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