ひなまつり

　もうすぐ、雛祭り。

　先日、店のショーウィンドウに、雛人形を飾った。街を行き交う人たちに、少しでも、季節感を味わって頂きたい。

　風流に、着物を着こなした老紳士お二人が、その前で足を止められた。

　雛人形を眺めながら、雛祭りの風情を味わって下さっているのだろう。

　私は、何だかうれしくて、お二人の会話を、聴くとはなしに、店先を掃いていた。

｢昨日の釣りは坊主でしたわ｣
｢わしもですわ｣
｢針とエサを付けるの忘れてましてな、ハッハッハ♪｣
｢わしなんか、釣糸ごと付けるの忘れてて、竿だけ垂らしとって、暇で暇で、ワッハッハ♪｣

　……………………。

　私は、軽く笑顔で二人に会釈し、店の奥に入った。ごっついバスタオルを分厚く畳んで顔をうずめ、

｢『雛祭り(ひなまつり)』やなくて、『暇な釣り(ひまなつり)』の話、しとんかッ、ボケーーーッッッ！！！｣

　大声で、一人ツッコんだッ！