浅き夢見し 酔いもせず

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獣のように喚く父。弱い彼は酒に狂うしかなかったかもしれない。
 夥しい金も、欲に塗れた煌びやかな塔も、何もかも火を放つと、面白いように燃えた。
 燃えるホテルの一室、血に塗れ横たわる総理。刺した弟はちゃんと逃げただろうか。
 酒や金、愛、権力や暴力。この世の誰もが、何かに狂わなければ生きられない。全てを与えてくれた狂人たちも、私を酔わせてはくれなかった。

「死」だけは与えてくれなかった。

萎びた刑事の銃口も、きっと私の期待には応えてくれないだろう。狂人達が酔う夢心地の世で、自分だけが素面の心細さを炎が慰める。

銃声、灼熱、崩れ落ちる視界の中で、ただ少女のように安らぎに胸を躍らせた。

ーー気づけば、焼け落ちたホテルを呆然と眺めている。

無慈悲な生を突きつけるように、残酷なまでの呪いにも似た正気がそこにあるだけだった。

次は神様でも誑かさない限り、悪夢は終わらないのだと悟った。
その他
公開:21/02/08 16:09
更新:21/02/08 16:16
あさきゆめみし えいもせず いろは唄シリーズ④ 最終回 壮大な心中未遂

空津 歩( 東京在住 )

空津 歩です。

ずいぶんお留守にしてました。

ひさびさに描いていきたいです!


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