雪女のかまど

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母は料理が出来ない人だった。
苦手ではなく作れない。ガスをひねれば燃焼不良を起こし、電子レンジは故障し、ケトルの中身は冷水になる。冷凍食品の自然解凍すら不可で、三度の食事は父が作っていた。
「お母さんは雪女ね」
絵本で覚えた私が言うと、笑いながら答えた。
「かまどの魔女の呪いよ」
母の祖先が、魔女をかまどで焼いた報いだそうだ。差し出したカップにみるみる霜が降りていく。母が直に触れた料理は凍るから、一切作れないし、母自身は口にも出来ない。
母に合わせて冷製献立を囲み、隣で氷を噛む音を聞く。立ち上る冷気と白い息。遠目には皮肉なほど温かそうな食卓。笑う母の口元は、その実泣きそうに歪んでいた。

そんな母が、本当の笑顔になる日がある。
真夏の私の誕生日。父と私が作り、母が仕上げるアイスケーキ。最高に冷たくて甘い、唯一の手料理を前に、母の顔は輝いている。
ケーキを取り分ける手は、とろけそうに温かい。
その他
公開:21/02/07 17:16
雪女×グレーテル・リミックス

創樹( 富山 )

創樹(もとき)と申します。
前職は花屋。現在は葬祭系の生花事業部に勤務の傍ら、物書き(もどき)をしております。
小石 創樹(こいわ もとき)名にて、AmazonでKindle書籍を出版中。ご興味をお持ちの方、よろしければ覗いてやって下さい。
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ベリーショートショートマガジン『ベリショーズ』
Light・Vol.6~Vol.12執筆参加
他、note/monogatary/小説家になろう など投稿サイトに出没。

【直近の受賞歴】
第一回小鳥書房文学賞入賞。2022年6月アンソロジー出版
愛媛新聞超ショートショートコンテスト2022 特別賞受賞

いつも本当にありがとうございます!

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