狸社長と狐秘書

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「どうしよう、どうしよう」

都内に建つとあるビルで、社長はうろたえていた。
秘書が隣室から出てきて声をかける。

「お話し声が聞こえたのでご会談中かと……何か心配事でも?」

「いや、最近同業者が私の命を狙っていると耳にしてね。今期の利益でボディガードを10名増やそうかと考えているんだ」

「ふふ、社長、そういうの、取らぬ狸の皮算用と言うのですのよ」

呑気な秘書の言葉に、社長は最近一層でっぷりとした腹をさすりながらため息をつく。

「念には念をとも言うじゃないか。君、明日の天気はどうだね?それによっては早急に傘を持つボディガードを……」

「あら、ご心配には及びませんわ」

秘書はスーツの胸元から、優雅に銃を取り出した。


ーー静寂に包まれた社長室で死んだふりをしていた社長がむくりと起き上がる。

「防弾チョッキのおかげで助かった。しかしこれじゃあ狐と狸の化かし合いじゃないか……」
その他
公開:21/02/07 11:36

葉智 樹壱

葉智 樹壱(はち きいち)と言います。
よろしくお願いします。

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