29
8
普段の彼女なら、客の事情を詮索することなどまずない。だが何故かこの時は、気づくと口から言葉がこぼれていた。
客は困惑したように答えた。
「どうしてでしょうか。この花が欲しかったんです」
まるで彼女にその理由を教えてくれと言わんばかりの視線に、女は思わず目を逸らした。
「…八重咲きのお花は一本でもボリュームがありますし、一輪挿しよりは少し余裕のある方が…」
目の前のガラスの花瓶に添えた手が、微かに震えた。客の視線が花瓶よりも、自分の手に注がれているような気がしてならなかった。
翌日の晩、驚いたことに再びその客が店に現れた。手に昨日と同じ包みを提げて。
「どうなさいました?何か不都合でも…」
客は静かに紙袋を差し出した。
「必要なくなりました」
「いらない?」
女は怪訝な表情を浮かべた。
「…あの花は、僕が欲しくて買ったわけじゃないから」
そして客は小さな声で、多分、と呟くように付け加えた。
客は困惑したように答えた。
「どうしてでしょうか。この花が欲しかったんです」
まるで彼女にその理由を教えてくれと言わんばかりの視線に、女は思わず目を逸らした。
「…八重咲きのお花は一本でもボリュームがありますし、一輪挿しよりは少し余裕のある方が…」
目の前のガラスの花瓶に添えた手が、微かに震えた。客の視線が花瓶よりも、自分の手に注がれているような気がしてならなかった。
翌日の晩、驚いたことに再びその客が店に現れた。手に昨日と同じ包みを提げて。
「どうなさいました?何か不都合でも…」
客は静かに紙袋を差し出した。
「必要なくなりました」
「いらない?」
女は怪訝な表情を浮かべた。
「…あの花は、僕が欲しくて買ったわけじゃないから」
そして客は小さな声で、多分、と呟くように付け加えた。
恋愛
公開:21/02/08 12:22
水素カフェさん作
「名前も知らない花」
勝手に往復書簡
女性の視点から書きました
原稿書きの息抜き(≒逃避)笑
画像の花は「トルコキキョウ」
#107
2019年11月、SSGの庭師となりました
現在は主にnoteと公募でSS~長編を書いています
留守ばかりですみません
【活動歴】
・東京新聞300文字小説 優秀賞
・『第二回日本おいしい小説大賞』最終候補(小学館)
・note×Panasonic「思い込みが変わったこと」コンテスト 企業賞
・SSマガジン『ベリショーズ』掲載
(Kindle無料配信中)
【近況】
第31回やまなし文学賞 佳作→ 作品集として書籍化(Amazonにて販売中)
小布施『本をつくるプロジェクト』優秀賞
【note】
https://note.com/akishiba_note
【Twitter】
https://twitter.com/CNecozo
ログインするとコメントを投稿できます