往復書簡 水素カフェさん作『名前も知らない花』

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普段の彼女なら、客の事情を詮索することなどまずない。だが何故かこの時は、気づくと口から言葉がこぼれていた。
客は困惑したように答えた。
「どうしてでしょうか。この花が欲しかったんです」
まるで彼女にその理由を教えてくれと言わんばかりの視線に、女は思わず目を逸らした。
「…八重咲きのお花は一本でもボリュームがありますし、一輪挿しよりは少し余裕のある方が…」
目の前のガラスの花瓶に添えた手が、微かに震えた。客の視線が花瓶よりも、自分の手に注がれているような気がしてならなかった。

翌日の晩、驚いたことに再びその客が店に現れた。手に昨日と同じ包みを提げて。
「どうなさいました?何か不都合でも…」
客は静かに紙袋を差し出した。
「必要なくなりました」
「いらない?」
女は怪訝な表情を浮かべた。
「…あの花は、僕が欲しくて買ったわけじゃないから」
そして客は小さな声で、多分、と呟くように付け加えた。
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公開:21/02/08 12:22
水素カフェさん作 「名前も知らない花」 勝手に往復書簡 女性の視点から書きました 原稿書きの息抜き(≒逃避)笑 画像の花は「トルコキキョウ」 #107

秋田柴子

2019年11月より、SSGの庭師となりました。
現在SSから長編まで幅広く書いております。

【活動歴】
・東京新聞300文字小説 優秀賞1回 入選2回
・SSG 空想競技コンテスト 入賞
・『第二回日本おいしい小説大賞』最終候補(小学館)
・SSマガジン『ベリショーズ vol.5,6,7,light』掲載(Kindle無料配信中)
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【近況】
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