僕たちのグラッセ
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夜更けに台所の洗いかごを漂白していたら、みしみしりと春が食事している音が聞こえた。僕は風呂場に漂う春の気配にパスワードを告げて春と話すことを許された。
ベランダの春はまだパジャマ姿で、炊きたての腐葉土を植木鉢に盛って食べている。
「何時に出るの」
「まだ決めてないけど」
春はまだ本格的な春の前に日本各地の古いアーケードを修理する旅に出るという。
僕は春が好きだ。向き合うと緊張して言葉が続かなくなるほどに。春はそんな僕の様子を気にもとめず飄々と美しくて、だから僕は春にそっと触れた。
去年の秋、僕たちは一緒にマロングラッセをつくった。
渋皮をむいて栗を煮る。グラニュー糖を入れて溶かし煮て冷ます。ひと晩おいてグラニュー糖を追加する。それを溶かし煮て冷ます。そんなことを3日続けてできた甘い宝石を、春は食べることなく出ていった。
「知らなくていいことってたくさんあるよ」
僕は春をもっと知りたいのに。
ベランダの春はまだパジャマ姿で、炊きたての腐葉土を植木鉢に盛って食べている。
「何時に出るの」
「まだ決めてないけど」
春はまだ本格的な春の前に日本各地の古いアーケードを修理する旅に出るという。
僕は春が好きだ。向き合うと緊張して言葉が続かなくなるほどに。春はそんな僕の様子を気にもとめず飄々と美しくて、だから僕は春にそっと触れた。
去年の秋、僕たちは一緒にマロングラッセをつくった。
渋皮をむいて栗を煮る。グラニュー糖を入れて溶かし煮て冷ます。ひと晩おいてグラニュー糖を追加する。それを溶かし煮て冷ます。そんなことを3日続けてできた甘い宝石を、春は食べることなく出ていった。
「知らなくていいことってたくさんあるよ」
僕は春をもっと知りたいのに。
公開:21/02/08 09:41
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